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ゼロクロッシング検出
可変ステップ ソルバーは、変数がゆっくり変化するときにはタイム ステップ サイズを増加させ、急速に変化するときには減少させて、タイム ステップ サイズを動的に調整します。この動作によってソルバーが不連続点付近で小さいステップを取りますが、これは変数の変化が急であるためです。このため精度は向上しますが、シミュレーション時間が余分にかかることがあります。
Simulink® はゼロクロッシング検出という手法を使用して、過度に小さいタイム ステップを取ることなく正確に不連続点を特定します。この技法を使うとシミュレーション実行時間は短縮されますが、意図した完了時間前に一部のシミュレーションが停止することがあります。
この目的のため、Simulink は、非適応アルゴリズムと適応アルゴリズムという 2 つのアルゴリズムを使用します。これらの技法の詳細については、ゼロクロッシング アルゴリズムを参照してください。
過度のゼロクロッシング検出の影響を示すデモ
この例では、example_bounce_two_integrators
、example_doublebounce
、および example_bounce
という、ゼロクロッシング動作を示す 3 つのモデルを提供します。
example_bounce_two_integrators
モデルでは、適応アルゴリズムを使用しないと、過度のゼロクロッシングによって意図した完了時間前にシミュレーションが停止する場合を見ることができます。
example_bounce
モデルでは、2 重積分器を使用したボールのダイナミクスを実装することで、example_bounce_two_integrators
以上に優れたモデル設計を使用しています。
example_doublebounce
モデルでは、適応アルゴリズムが 2 つの異なるゼロクロッシング要件を使用して複雑なシステムを正しく解く様子を見ることができます。
example_bounce_two_integrators
モデルを考えます。このモデルは 2 つの単一の積分器を使用して、シミュレーションの時間にわたるボールの垂直速度と位置を計算します。
コマンド ラインで
open_system('example_bounce_two_integrators')
を実行してモデルを開きます。ブロック線図が表示されたら、モデル コンフィギュレーション パラメーターの [ソルバー] ペインで [ソルバーの詳細]、[ゼロクロッシング オプション]、[アルゴリズム] パラメーターを
Nonadaptive
に設定します。モデルの終了時間を 20 秒に設定します。この設定は Simulink のツールストリップまたはモデル コンフィギュレーション パラメーターの [ソルバー] ペインで変更できます。モデルのシミュレーションを実行します。
これでシミュレーション結果を表示して解析することができます。
シミュレーションの最後の部分を詳細に調べると、速度がゼロよりわずかに上にあることがわかります。
シミュレーションの [終了時間] を 25 秒に変更してモデルのシミュレーションを実行します。シミュレーションは、過度な連続ゼロクロッシング イベントのため、Compare To Zero ブロックおよび Position ブロックでエラーが発生して停止します。
Simulink will stop the simulation of model 'example_bounce_two_integrators' because the 2 zero crossing signal(s) identified below caused 1000 consecutive zero crossing events in time interval between 20.357636989536076 and 20.357636990631594. -------------------------------------------------------------------------------- Number of consecutive zero-crossings : 1000 Zero-crossing signal name : RelopInput Block type : RelationalOperator Block path : 'example_bounce_two_integrators/Compare To Zero/Compare' -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- Number of consecutive zero-crossings : 500 Zero-crossing signal name : IntgLoLimit Block type : Integrator Block path : 'example_bounce_two_integrators/Position' --------------------------------------------------------------------------------
この制限を [モデル コンフィギュレーション パラメーター]、[ソルバー]、[連続的なゼロ クロッシングの数] パラメーターの調整によって増加が可能ですが、この変更でもシミュレーションを 25 秒間続行させることはできません。
モデル コンフィギュレーション パラメーターの [ソルバー] ペインで [ソルバーの詳細]、[ゼロクロッシング オプション]、[アルゴリズム] パラメーターを Adaptive
に変更して、モデルを再度 25 秒間シミュレーションします。
シミュレーションの最後の 5 秒間を拡大すると、結果はより完全であり、跳ねるボールのダイナミクスの想定される解析解により近いことがわかります。確認できるチャタリングの量は、ゼロに近づくシステムの状態の結果であり、数値シミュレーションで想定されるものです。
example_bounce
モデルは Second-Order Integrator ブロックを使用して、跳ねるボールのダイナミクスをモデル化します。ソルバーのパフォーマンスとしては、これが、ボールのダイナミクスの 2 重積分をモデル化する望ましい方法です。example_bounce_two_integrators
と example_bounce
についてソルバーのパフォーマンスを比較するには、両方のモデルについて [ソルバー プロファイラー] を実行してみます。両方のモデルの詳細な比較については、跳ねるボールのシミュレーションを参照してください。
適応ゼロクロッシング検出アルゴリズムと非適応ゼロクロッシング検出アルゴリズムを横に並べた比較については、2 個の跳ねるボール: 適応ゼロクロッシング位置の使用を参照してください。
過度のゼロクロッシングの回避
次の表を使用して、モデルで過度のゼロクロッシング エラーを防ぎます。
変更のタイプ | 変更の手順 | 利点 |
---|---|---|
ゼロクロッシングの許可数を増やす | [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインの [連続的なゼロクロッシングの数] の値を増やします。 | ゼロクロッシングを解決する時間が十分与えられます。 |
[信号のしきい値] を緩める | [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインで [アルゴリズム] プルダウンを [適応] を選択し、 [信号のしきい値] オプションの値を増やします。 | ソルバーがゼロクロッシングを正確に検出するための必要時間を短くします。こうすることでシミュレーション時間を短縮し、過度の連続ゼロクロッシング エラー数を減らします。ただし、[信号のしきい値] を緩めると精度が低下する可能性があります。 |
[適応] アルゴリズムを使用する | [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインで [アルゴリズム] ドロップダウンから [適応] を選択します。 | このアルゴリズムは、ゼロクロッシングのしきい値を動的に調整します。これにより、精度が向上し、検出される連続ゼロクロッシングの数が減ります。このアルゴリズムには、[時間の許容誤差] と [信号のしきい値] の両方を指定するオプションがあります。 |
特定のブロックでゼロクロッシング検出を無効にする |
| ゼロクロッシング検出をローカルで無効にすると、特定のブロックでの過度の連続ゼロクロッシングによるシミュレーション停止を回避することができます。他のすべてのブロックには引き続きゼロクロッシング検出が有効で精度が向上します。 |
モデル全体でゼロクロッシング検出を無効にする | [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインで [ゼロクロッシング コントロール] プルダウンから [ | こうすると、モデルのあらゆる場所でゼロクロッシングが検出されなくなります。この結果、ゼロクロッシング検出が無効でモデルの精度は向上しません。 |
| [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインで [ | 詳細については、Maximum orderを参照してください。 |
最大ステップ サイズを減らす | [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスの [ソルバー] ペインの [ | ソルバーがゼロクロッシングの解決に必要とするステップ数が抑えられます。ただし、ステップ サイズを減らすとシミュレーション時間が増えます。適応アルゴリズムを使用している場合はほとんど必要ありません。 |
シミュレーターがゼロクロッシング イベントを見落とす場合
跳ねるボールのシミュレーションおよび2 個の跳ねるボール: 適応ゼロクロッシング位置の使用の bounce モデルと double-bounce モデルから、不連続点周辺の高周波変動 (「チャタリング」) が、シミュレーションの早期停止を引き起こす可能性があることがわかります。
また、ソルバーの許容誤差が大きすぎる場合もソルバーがゼロクロッシングを完全に見落とすことがあります。これは、ゼロクロッシング検出技法では、信号の値によって符号が変更されたかどうかがメジャー タイム ステップの後にチェックされることが原因です。符号変更はゼロクロッシングが発生したことを示し、ゼロクロッシング アルゴリズムは正確なクロッシングの時間を探します。しかし、ゼロクロッシングがある 1 つのタイム ステップの開始時と終了時で値の符号変化がない場合を想定してみましょう。このような場合、ソルバーがゼロクロッシング部を検出できずに、その位置を横切ってしまいます。
次の図は、ゼロを横切る信号を示しています。最初の例では、タイム ステップ間で符号が変わっていないため、積分はこのイベントを飛び越えてしまいます。2 番目の例では、ソルバーが符号の変化を検出し、したがってゼロクロッシング イベントを検出します。
bounce モデルの 2 つの積分器実装について考えてみます。
[ソルバー プロファイラー] を使用してシミュレーションの最後の 0.5 秒をプロファイリングすると、シミュレーションでは Compare To Zero ブロックで 44 のゼロクロッシングを検出し、Position ブロックの出力で 22 のイベントを検出することがわかります。
[相対許容誤差] パラメーターの値を、既定の 1e-3
ではなく 1e-2
に増やします。このパラメーターは [コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログの [ソルバー] ペインの [ソルバーの詳細] セクション、または set_param
を使用して RelTol
を '1e-2'
として指定することで変更できます。
新しいソルバーの相対許容誤差を使用してシミュレーションの最後の 0.5 秒をプロファイリングすると、Compare To Zero ブロックでは 24 のゼロクロッシング イベント、Position ブロックの出力では 12 イベントのみが検出されることがわかります。
ブロックでのゼロクロッシング検出
ブロックはゼロクロッシング変数のセットを登録できます。それらは、不連続点をもつ状態変数の関数です。ゼロクロッシング関数は、対応する不連続が生じるとき正または負の値からゼロを渡します。登録されたゼロクロッシング変数は各シミュレーション ステップの最後に更新され、符号が変わった変数はゼロクロッシング イベントとして特定されます。
ゼロクロッシングが検出された場合、Simulink ソフトウェアは符号が変化した変数の前の値と現在の値の間で内挿を行い、ゼロクロッシングの時間 (不連続点) を推定します。
メモ
ゼロクロッシング検出アルゴリズムは、データ型が double
の信号に対してのみ、ゼロクロッシング イベントをまとめることができます。
ゼロクロッシングを登録するブロック
次の表で、ゼロクロッシングを登録するブロックのリストとブロックがどのようにしてゼロクロッシングを使用するかについて説明します。
ブロック | ゼロクロッシングの検出の数 |
---|---|
1: 正方向または負方向に向かう入力信号がゼロと交わる瞬間を検出。 | |
2: 1 つは上限しきい値に到達する瞬間を検出し、もう 1 つは下限しきい値に到達する瞬間を検出。 | |
1: 信号が定数と等しくなる瞬間を検出。 | |
1: 信号がゼロと等しくなる瞬間を検出。 | |
2: 1 つは不感帯に入る瞬間 (入力信号から下限値を差し引いたもの) を検出し、もう 1 つは不感帯から出る瞬間 (入力信号から上限値を差し引いたもの) を検出。 | |
1: イネーブル端子が Subsystem ブロックの中にあるときに、ゼロクロッシング検出機能を提供。詳細については、Enabled Subsystem の使用を参照してください。 | |
1: 正方向または負方向に向かう入力信号がゼロと交わる瞬間を検出。 | |
1: 正方向または負方向に向かう入力信号がゼロと交わる瞬間を検出。 | |
1 または 2。出力端子がない場合、入力信号がしきい値に達した場合に検出されるゼロクロッシングは 1 つだけです。出力端子が存在する場合、2 番目のゼロクロッシングは、出力を 1 から 0 に戻して、インパルス状の出力を生成するために使われます。 | |
1: If 条件が満たされる瞬間を検出。 | |
リセット端子がある場合、リセットが生じる瞬間を検出。 出力に制限がある場合、3 つのゼロクロッシングが存在します。1 つは、飽和上限に到達する瞬間を検出し、1 つは飽和下限に到達する瞬間を検出し、もう1 つは飽和状態でなくなる瞬間を検出します。 | |
1: 出力ベクトルの各要素に対して、入力信号が新しい最小値または最大値となる瞬間を検出。 | |
1: 設定した関係が真である瞬間を検出。 | |
1: リレーがオフの場合、スイッチがオンになる時点を検出。リレーがオンの場合、スイッチがオフになる時点を検出。 | |
2: 1 つは上限に到達するかまたは上限を離れる瞬間を検出し、1 つは下限に到達するかまたは下限を離れる瞬間を検出。 | |
5: 2 つは状態 x の上限または下限に到達する瞬間を検出し、2 つは状態 dx/dt の上限または下限に到達する瞬間を検出し、1 つは状態が飽和から出る瞬間を検出。 | |
1: 入力がゼロを横切る瞬間を検出。 | |
1: 正方向または負方向に向かう入力信号がゼロと交わる瞬間を検出。 | |
1: ステップ時間を検出。 | |
1: スイッチ条件が発生する瞬間を検出。 | |
1: case 条件が満たされる瞬間を検出。 | |
1: Triggered 端子が Subsystem ブロックの中にあるときに、ゼロクロッシング検出機能を提供。詳細については、Triggered Subsystem の使用を参照してください。 | |
2: 1 つはイネーブル端子、もう 1 つはトリガー端子の検出。詳細については、Enabled and Triggered Subsystem の使用を参照してください。 | |
1: 正方向または負方向に向かう入力信号がゼロと交わる瞬間を検出。 |
メモ
ゼロクロッシング検出は、連続時間モードを使用する Stateflow® チャートでも使用できます。詳細については、連続時間シミュレーション用の Stateflow チャートの設定 (Stateflow)を参照してください。
実装例: Saturation ブロック
ゼロクロッシングを登録する Simulink ブロックの一例は、Saturation ブロックです。ゼロクロッシング検出は、Saturation ブロックで次の状態イベントを特定します。
入力信号が上限に到達する。
入力信号が上限から離れる。
入力信号が下限に到達する。
入力信号が下限から離れる。
それ自身の状態イベントを定義する Simulink ブロックは、"厳密なゼロクロッシング" をもっていると考えられます。ゼロクロッシング イベントの明示的な通知を受け取るには、Hit Crossing ブロックを使用します。ゼロクロッシングが含まれるブロックのリストについては、ゼロクロッシングを登録するブロックを参照してください。
状態イベントの検出は、内部のゼロクロッシング信号の構成によって異なります。この信号をブロック線図から使用することはできません。Saturation ブロックの場合、上限に対するゼロクロッシングを検出するために使われる信号は、zcSignal = UpperLimit
- u
です。ここで、u
は入力信号です。
ゼロクロッシング信号は方向属性をもっており、次のような値を取ります。
rising — ゼロクロッシングは、信号が負からゼロに向かう瞬間またはゼロを通過する瞬間、あるいはゼロから正になる瞬間で発生します。
falling — ゼロクロッシングは、信号がゼロに下がる、またはゼロを通過する瞬間、あるいはゼロから負になる瞬間で発生します。
either — ゼロクロッシングは、rising と falling のいずれかの条件が発生した場合に発生します。
Saturation ブロックの上限に対して、ゼロクロッシングの方向は、either です。これにより、同じゼロクロッシング信号を使って飽和イベントの切り替えを検出することができます。