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非線形モデルの線形化

線形化とは

"線形化" とは、操作点の周りの小さい領域で有効な非線形システムの線形近似です。

たとえば、非線形関数が y=x2 であるとします。操作点 x = 1y = 1 に関してこの非線形関数を線形化すると、線形関数 y=2x1 が得られます。

操作点の近くでは、y=2x1y=x2 をよく近似しています。操作点から離れると、近似度は低くなります。

次の図は、y=x2 の線形化への近似度が高いと考えられる領域を示しています。実際の有効領域は、非線形モデルによって異なります。

線形化の概念を動的システムに広げると、次の形式で連続時間の非線形微分方程式を作成できます。

x˙(t)=f(x(t),u(t),t)y(t)=g(x(t),u(t),t).

これらの方程式では、x(t) はシステムの状態を表し、u(t) はシステムへの入力を表し、y(t) はシステムの出力を表します。

このシステムの線形化モデルは、操作点 t=t0, x(t0)=x0, u(t0)=u0 および y(t0)=g(x0,u0,t0)=y0 の周りの小さい領域で有効です。

線形化モデルを表すには、操作点を中心とする新しい変数を定義します。

δx(t)=x(t)x0δu(t)=u(t)u0δy(t)=y(t)y0

次の変数の値が小さいとき、δx、δu、および δy に関する線形モデルが有効になります。

δx˙(t)=Aδx(t)+Bδu(t)δy(t)=Cδx(t)+Dδu(t)

線形化の用途

線形化はモデル解析および制御設計の用途で役立ちます。

指定した非線形の Simulink® モデルの正確な線形化によって線形状態空間、伝達関数または零点-極-ゲイン方程式が生成されます。これらを使用して次のことが可能です。

  • Simulink モデルのボード応答をプロット

  • 開ループ応答を計算してループの安定余裕を評価

  • 異なる操作点の近くでプラント応答を解析および比較

  • 線形コントローラーを設計

    古典制御システムの解析と設計の手法には、線形時不変モデルが必要です。Simulink Control Design™ では、補償器の調整時にプラントが自動的に線形化されます。制御設計法の選択を参照してください。

  • 閉ループの安定性を解析

  • 制御システムの閉ループ線形モデルを計算して、帯域幅の共振のサイズを測定

  • パラメーターの変化とモデル化誤差に対する感度が下げられたコントローラーを生成

Simulink Control Design での線形化

Simulink Control Design ソフトウェアを使用すると、連続時間、離散時間、またはマルチレートの Simulink モデルを線形化できます。その結果、状態空間形式の線形時不変モデルが生成されます。

既定では、Simulink Control Design は "ブロックごと" の手法を使用してモデルを線形化します。このブロックごとの手法では、Simulink モデル内の各ブロックを個々に線形化し、結果を結合して、指定されたシステムの線形化を生成します。

全モデルの数値摂動法を使ってシステムを線形化することもできます。ここで、ソフトウェアはルートレベルの入力と状態の値に摂動を与えることによってモデル全体の線形化を計算します。各入力と状態につき、ソフトウェアはモデルに少量の摂動を与え、これらの摂動へのモデルの応答に基づく線形モデルを計算します。モデルに摂動を与えるには、前進差分または中心差分を使用できます。

ブロックごとの線形化手法には、全モデル摂動よりも優れた点がいくつかあります。

  • 大半の Simulink ブロックには線形化が事前にプログラムされており、ブロックの正確な線形化を提供します。

  • 線形解析ポイントを使用して、線形化するモデルの部分を指定できます。

  • モデルのシミュレーションに影響を与えずにカスタム線形化を使用するようにブロックを設定できます。

  • 構造的な非最小状態は自動的に削除されます。

  • 不確かさを伴う線形化を指定できます (Robust Control Toolbox™ ソフトウェアが必要)。

  • 詳細な診断情報を取得できます。

  • マルチレート モデルを線形化する場合、異なるレート変換法を使用できます。全モデルの数値摂動法は、ゼロ次ホールドのレート変換のみを使用できます。

正確な線形化に必要なモデルの要件

正確な線形化ではほとんどの Simulink ブロックがサポートされます。

ただし、強い不連続性やイベントベースのダイナミクスをもつ Simulink ブロックは、正確にはゼロに線形化されるか、大きい (無限の) ゲインに線形化されます。イベントベースまたは不連続の動作を含むモデルは、Simulink Control Design ソフトウェアによる特別な処理が必要です。そのようなイベントベースまたは不連続の動作は、次のようなブロックから生成されることがあります。

  • Discontinuities ライブラリのブロック

  • Stateflow® チャート

  • Triggered Subsystem

  • パルス幅変調 (PWM) 信号

ほとんどのアプリケーションでは、Simulink モデルの状態は定常状態でなければなりません。そうでない場合、線形モデルは短い時間間隔でのみ有効です。

線形化に対する操作点の影響

正確な線形モデルを得るには、線形化に適切な操作点を選択することが重要です。線形モデルは、モデルを線形化する操作点の近傍でのみ有効な非線形モデルの近似です。

線形化する Simulink ブロックを指定しますが、モデル内のすべてのブロックが操作点に影響を与えます。

異なる操作点に関して線形化すると、非線形モデルに 2 つのきわめて異なる線形近似が得られる可能性があります。

このモデルの線形化の結果を次の図に示します。ここで、積分 x0 = 0 の初期条件を使用します。

次の表は、2 つの異なる操作点について異なる線形化の結果をまとめたものです。

操作点線形化の結果
初期条件 = 5、状態 x1 = 530/s
初期条件 = 0、状態 x1 = 00

Simulink モデルは、3 つの異なるタイプの操作点で線形化できます。

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