Electric Drives モデル
Electric Drives モデルは、多くの分野の技術者がシステムのシミュレーションに電気駆動装置を正確かつ容易に組み込めるように設計されています。インターフェイスでは、システムを模したトポロジ内に選択したドライブのパラメーターが表示されるため、既定値に対して必要な調整を容易に行うことができます。システムと相互作用する電気駆動装置の時間や周波数についての動作を解析するために、他のツールボックスまたはブロックセットをシームレスに使用できます。高出力の駆動装置に関して、負荷の動作限界と同時に電源の動作限界も考慮して注意深く操作する必要があるときに、これらのモデルは非常に役立ちます。適切な例として、ハイブリッド カーの電気駆動システムがあります。このシステムでは、ブレーキをかけたときに、車輪の駆動からバッテリの再充電にミリ秒単位で切り替えることができます。
エンジニアや科学者は、工業や輸送システムで使用される標準的な 7 つの直流 (DC) ドライブ、トラクションから位置決め装置に至るまで、より効率的で用途の広いモーターを提供する 8 つの交流電流 (AC) ドライブ、および Simulink® ブロックで負荷が作成されるモーターのモデルへの接続に役立つシャフト モデルや減速装置モデルをすぐに使用できます。モデルのさらなる価値として、モーター、パワー コンバーター、制御システムの有効性を確実にするパラメーターがあります。主要な製造元が公表したデータとモデルの動作を比較することにより、モーター モデルの作り込みに特別な注意が払われました。標準的なドライブの多数の例またはケース スタディが、モデルとともに提供されています。うまくいけば、標準的なユーザー システムはこれらの解析されたシステムと似ているために、実際のシステム構築の時間を節約したり、解析での既知の基準を提供することができます。
Electric Drives モデルにアクセスするには、MATLAB® コマンド プロンプトで次を入力します。
electricdrivelib
電気駆動とは
電気駆動装置とは、電気エネルギーを、調整可能な速度の機械エネルギーに変換するシステムです。このため、電気駆動装置は可変速駆動装置 (ASD) とも呼ばれます。また、モーターに安定した電流を供給するために、電気駆動には電流 (またはトルク) 制御が必ず含まれています。したがって、電気駆動装置のトルク/速度は、定常状態で機械的負荷のトルク/速度特性に一致させられます。機械的な負荷に適合すると、モーターのエネルギー効率がより良くなり、エネルギーのコストが少なくて済みます。さらに、加速や減速の過渡の時間においては、電気駆動装置は敏捷な動力性能を提供し、滑らかな起動や停止などを可能にします。
ますます多くのアプリケーションで、機械的な負荷に合わせてトルクと回転数を変化させることが求められています。電気輸送の方法、エレベーター、コンピューター ディスク ドライブ、工作機械、ロボットなど、高性能アプリケーションの例では、目的の動作に対して正確に追従されなければなりません。ポンプ、ファン、コンベヤー、HVAC など、中程度の性能のアプリケーションの例では、可変速の運用がエネルギーの節約につながります。
電気駆動装置のコンポーネント
電気駆動装置は、次の主要コンポーネントで構成されます。
電気モーター
パワー エレクトロニクス コンバーター
ドライブ コントローラー
次の図は、電気駆動装置の基本的なトポロジを示しています。
電気駆動装置の基本的なブロック線図
電気駆動装置で使用されるモーターは、直流 (DC) モーターまたは交流 (AC) モーターです。使用されるモーターのタイプにより、電気駆動装置は DC モーター ドライブと AC モーター ドライブに分類されます。
パワー エレクトロニクス コンバーターは、電源から可変の AC 電圧と周波数を生成します。コンバーターのタイプは、電気駆動装置のタイプに応じて様々です。DC モーター ドライブは、整流回路 (AC-DC コンバーター) またはチョッパー (DC-DC コンバーター) を利用します。一方、AC モーター ドライブは、インバーター (DC-AC コンバーター) またはサイクロ コンバーター (AC-AC コンバーター) を利用します。すべてのパワー エレクトロニクス コンバーターの基本となるコンポーネントは、電子スイッチです。これには、サイリスタのように半制御可能 (オン状態の制御可能) のもの、または IGBT (絶縁ゲート バイポーラ トランジスタ) や GTO (ゲート ターンオフ サイリスタ) のように完全に制御可能 (オン状態とオフ状態の制御可能) のものがあります。このような電子スイッチの機能により、パワー エレクトロニクス コンバーターは可変 AC 電圧と周波数を生成可能になります。
ドライブ コントローラーの目的は、センサーによってフィード バックされるさまざまな駆動変数 (電流、速度など) を考慮して、目的の駆動トルクや回転数のプロファイルを電力コンバーター用のトリガー パルスに変換することです。この変換を実現するため、コントローラーは第一に電流 (またはトルク) 制御器をベースとしています。電流制御器は、モーターの電流を正確に制御することでモーターを保護する働きがあるので必須です。この制御器の指令値 (SP) は、駆動コントローラーがトルク制御モードにある場合には、外部から与えることができます。あるいは、駆動コントローラーが速度制御モードにある場合には、速度調整器により内部から与えることができます。Electric Drives モデル内にある速度調整器は、電流制御器と直列であり、次の 3 つの重要な特性をもつ PI コントローラーにより構成されます。
SP の変化の割合は、ステップ状の急激な変化を避けるために、目的の速度が徐々に SP へと傾斜するように制限される。
電流制御器の SP である速度調整器の出力は、許容範囲の最大と最小により制限される。
ワインドアップを防止するために積分項も制限される。次の図は、PI コントローラーで構成された速度コントローラーのブロック線図を示します。
PI コントローラー ベースの速度調整器
多象限動作
Electric Drive ライブラリに用意されている各アプリケーションは、機械的負荷の駆動条件 (以下で説明する第 1、第 2、第 3、第 4 象限で表される多象限動作) 別に分類された形で提供されています。一般的に、モーターのトルク/速度に関する電気駆動装置の動作ポテンシャルは、トルク対速度の 4 象限のグラフを使って表すことができます。第 1 象限では、電気トルクと速度の符号はいずれも正です。これは電気トルクが運動方向にあるので、モーターの正転を表します。第 2 象限では、電気トルクの符号は負であり、速度の符号は正です。このことは、電気トルクが運動方向と逆向きであるので、力行を表します。第 3 象限では、電気トルクと速度の符号はいずれも負です。これは、モーターの逆転を表します。第 4 象限では、電気トルクの符号は正であり、速度は負です。これは、回生ブレーキを表します。ブレーキの駆動は、ブレーキ チョッパー (発電制動) または双方向電力潮流 (回生制動) のいずれかで行われます。
次の図は、電気駆動装置の 4 象限動作領域を示しています。各象限には、0 から +/- の定格速度 ωb までは、トルクが一定の領域があります。さらに、定格速度 ωb から最大速度 ωmax までは、トルクは逆比例して減少する領域があります。この 2 つ目の領域は電力が一定の領域であり、モーターの磁束を減らすことで得られます。
電気駆動装置の 4 象限動作
平均値モデル
Electric Drives モデルでは、詳細モード (Detailed モード) または平均値モード (Average モード) の 2 レベルのシミュレーションができます。詳細シミュレーションでは、Universal Bridge ブロックを使用して、整流器制御ドライブおよびインバーター制御ドライブの詳細な動作が表されます。この詳細モードでシミュレーションする場合、ドライブの高周波数の電気信号の成分を正しく表すために、シミュレーションの時間ステップを小さくする必要があります。
平均値シミュレーションは、パワー コンバーターの平均値モデルを使用します。平均値モードでシミュレーションする場合、電気モーターを駆動するパワー コンバーターの入出力電流および電圧は、実際の電流と電圧の平均値を表します。そうすることで、高周波成分は考慮しないので、シミュレーションの時間ステップを大きくすることができます。各パワー コンバーターの平均値モデルは、DC または AC の各モデル タイプのドキュメンテーションで説明されています。ドライブにおいて平均値モードで使用される時間ステップは、通常、モデルで使用されるコントローラーの最小のサンプル時間まで大きくすることができます。たとえば、ドライブが、電流制御ループに対して 20μs の時間ステップを使用し、速度制御ループに対して 100μs の時間ステップを使用する場合、平均値モードのシミュレーションの時間ステップは、20μs まで大きくすることができます。シミュレーションのタイム ステップの指標は、各モデルのドキュメンテーションに記載されています。