パワー エレクトロニクスの紹介
はじめに
この節では、以下を説明します。
パワー エレクトロニクスの要素を使用する方法
変圧器を使用する方法
回路の初期条件を変更する方法
Simscape™ Electrical™ Specialized Power Systems ソフトウェアはパワー エレクトロニクス デバイスのシミュレート用に設計されています。この節では、サイリスタに基づく簡単な回路を主な例に使用します。
下図の回路を考えます。これは、735 kV の伝送路で使用される静止型無効電力補償装置 (SVC) の 1 相分を表します。735 kV/16 kV 変圧器の 2 次側に、2 つの可変サセプタンスの回路が並列に接続されています。青がサイリスタ制御リアクター (TCR) 回路、赤がサイリスタ切り替えコンデンサ (TSC) 分岐です。
TCR/TSC 静止型無効電力補償装置の 1 相分
TCR と TSC の回路は、逆向きに接続された 2 つのサイリスタから成るバルブで制御されます。RC スナバ回路は各々のバルブに並列に接続されています。TSC 回路はオン/オフに切り替えられ、SVC (静止型無効電力補償回路) の容量性電流に断続的なステップの変化を与えています。TCR 回路は位相を制御して、正味の SVC 無効電流を連続的に変化させます。
TCR 分岐回路のシミュレーション
コマンド ラインで
power_new
と入力して新しいモデルを開きます。それをpower_TCRTSC
として保存します。[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Power Electronics] ライブラリからモデルに Thyristor ブロックを追加します。
Thyristor ブロック パラメーター ウィンドウを開いてパラメーターを次のように設定します。
Ron
1e-3
Lon
0
Vf
14*0.8
Rs
500
Cs
0.15e-6
スナバ回路は [Thyristor] ダイアログ ボックスに組み込まれていることに注意してください。
このブロックの名前を
TCR 1
に変更し、複製します。この新しいサイリスタ
TCR 2
を、TCR/TSC 静止型無効電力補償装置の 1 相分に示すようにTCR 1
とは逆向きで並列に接続します。スナバ回路は
TCR 1
で既に指定されているので、TCR 2
のスナバは削除しなければなりません。[TCR 2] ダイアログ ボックスを開き、スナバ回路のパラメーターを下記のように設定します。
Rs
Inf
Cs
0
ブロック アイコンからスナバが消えていることを確認してください。
[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Passives] ライブラリから Linear Transformer ブロックを追加します。TCR/TSC 静止型無効電力補償装置の 1 相分に示したように、その定常電力、周波数、巻部のパラメーター (Winding 1 =
primary
、Winding 2 =secondary
) を設定してください。Units パラメーターにより、励磁回路パラメーター Rm/Lm と同様に、各巻線の抵抗 R と漏れインダクタンス L を、SI 単位 (オーム、ヘンリー) または単位法 (pu) で指定できます。ここでは、R と L を単位法で直接指定するために、既定の pu 設定のままにしてください。ここでは第 3 の巻部がありませんので、[Three windings transformer] の選択を解除します。その結果、線形変圧器 TrA ブロックから巻部 3 が消えます。
最後に、励磁回路パラメーター Rm と Xm を
[500, 500]
に設定します。この値は抵抗性、誘導性の電流の 0.2% に対応する値です。単位法 (pu) の詳細は、pu 単位系を参照してください。電圧源、Ground ブロックおよび 2 つの Series RLC Branch ブロックを追加し、"TCR/TSC 静止型無効電力補償装置の 1 相分" の図に示すようにパラメーターを設定します。
[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Sensors and Measurements] ライブラリから Current Measurement ブロックを追加して、一次電流を測定します。
Thyristor ブロックの出力は、文字
m
で識別されることに注意してください。この出力は、サイリスタの電流 (Iak) と電圧 (Vak) を含む Simulink® のベクトル信号を出力します。これらの出力は Terminator ブロックに接続されます。TCR 1
ブロックの出力 m に接続された信号線と、i prim ブロックの出力 i に接続された信号線を選択します。シミュレーション データ インスペクターから、[選択した信号のログ] を選択します。システムに Pulse Generator ブロックを 2 つコピーし、Pulse1 と Pulse2 という名前を付けて、thyristor ブロックのゲートに接続します。
次に、2 つのサイリスタのタイミング パルスを定義する必要があります。1 サイクルごとに、サイリスタの転流電圧がゼロクロスしてα°を経た後、パルスを各サイリスタに供給する必要があります。そこで Pulse1 と Pulse2 のブロック パラメーターを次のように設定します。
Amplitude
1
Period
1/60 s
Pulse width (% of period)
1% (3.6 degrees pulses)
Phase Delay
1/60+T for Pulse1
1/60+1/120+T for Pulse2TCR 2
に供給されるパルスは、TCR 1
のそれに対して 180°遅れるようになっています。遅延時間 T を使用して点弧角αを指定します。点弧角を 120°にするため、ワークスペースのT
に次のように入力します。T = 1/60/3;
終了時間を
0.1
に設定し、シミュレーションを開始します。結果は図のようにシミュレーション データ インスペクターで観察できます。TCR シミュレーション結果
TSC 分岐回路のシミュレーション
これで、TSC 分岐回路を作成できるようになりました。
TCR 分岐回路 (青で表示) を複製し、ブロックの名前を変更して、TCR/TSC 静止型無効電力補償装置の 1 相分 の図で示すように抵抗とインダクタンスの値を指定します。
308e-6 ファラッドのコンデンサを、TSC 1 および TSC 2 バルブと直列に接続します。
Voltage Measurement ブロックを、コンデンサと並列に接続します。ブロックの出力を Terminator ブロックに接続します。信号を選択し、選択した信号をシミュレーション データ インスペクターにストリーミングします。
TCR 回路は 1 つの同期パルスで点弧していました。それに対し、TSL では連続的な点弧信号を 2 つのサイリスタに与えます。ここで 2 台のパルス発生器を削除します。Step ブロックを追加し、その出力を TSC 1 と TSC 2 の両方のゲートに接続します。そのステップ時間を 1/60/4 と設定してください。これは、電圧源の最初のピークで励起するという条件です。
シミュレーションを開始します。
コンデンサがゼロから帯電されるとき、コンデンサ電圧はシミュレーション データ インスペクターで 200 Hz の周波数の低い減衰の過渡特性を示し、一次電流と 60 Hz の成分が重ね合わされている様子がわかります。通常の TSC の動作中、コンデンサは最後にバルブ開放後に残った初期電圧を維持します。コンデンサを帯電させることで、バルブの導通後の変化を最小にするには、サイリスタの回路の点弧が、正しい極性で電圧源が最大値のタイミングでなければなりません。このコンデンサ間の初期電圧は、サイリスタのスイッチが導通した状態で得られる定常状態の電圧に相当します。バルブ通電時のコンデンサ電圧は 17.67 kVrms です。導通時に、コンデンサは次のピーク電圧で充電されなければなりません。
powergui ブロックをダブルクリックし、[ツール] タブの [初期状態] をクリックします。既定の初期値を持ったすべての状態変数が表示されます。コンデンサ C (変数
Uc_C
) 全体の初期電圧値は -0.3141V になります。両方のサイリスタがブロックされるとスナバの影響で微小電流が循環するため、この電圧は厳密なゼロではありません。ここで、状態変数Uc_C
を選択し、右上のフィールドに24989
と入力してください。この変更を有効にするために、[Apply] ボタンをクリックします。シミュレーションを開始します。予想どおり、コンデンサの両端電圧とその電流の過渡的な変化が消失してしまいました。図のように、初期電圧ありとなしで取得した電圧が、シミュレーション データ インスペクターで比較されます。
初期電圧の有無とコンデンサの過渡電圧