過渡状態のシミュレーション
はじめに
この節では、以下を説明します。
電気的サブシステムの作成方法
ブレーカーを使って過渡状態をシミュレーションする
異なる伝送路モデルでの時間軸領域におけるシミュレーション結果の違いを比較する
回路を離散化して得られる結果を、連続可変タイム ステップ アルゴリズムでの結果と比較する
ブレーカーを使って過渡状態をシミュレーションする
Simscape™ Electrical™ Specialized Power Systems ソフトウェアの主な用法の 1 つは、電気回路の過渡状態をシミュレートすることです。過渡状態は、機構的スイッチ (回路ブレーカー) もしくはパワー エレクトロニクス スイッチを利用してシミュレーションできます。
power_gui モデル例を開きます。
送電線の通電をシミュレートするために、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Passives] ライブラリから Breaker ブロックをモデルに追加して、パラメーターを以下のように設定します。
Breaker resistance Ron (Ohm)
0.001
ΩInitial status
0 (open)
Snubber resistance Rs (Ohm)
inf
Snubber capacitance Cs (F)
0
Switching times
[(1/60)/4]
Breaker ブロックをラインの送電端に直列に挿入します。その後、図のように回路を組み直します。
Scope 1 ブロックに接続する 2 本のラインを右クリックして、[プロパティ] を選択します。ダイアログ ボックスで、2 つの信号の [Log signal data] を選択し、[OK] をクリックします。シミュレーション データ インスペクターから、[ワークスペース データのログをデータ インスペクターに送信] を選択します。
150 km Line ブロックのダイアログ ボックスを開き、セクション数を
1
に設定します。シミュレーションを開始します。150 km Line ブロックのダイアログ ボックスを開き、セクション数を
1
から10
に変更します。シミュレーションを開始します。[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Passives] ライブラリから Distributed Parameters Line ブロックを追加します。相数を
1
に設定し、R、L、C および長さのパラメーターには 150 km Line ブロックと同じものを使用します。150 km Line ブロックを削除して、Distributed Parameters Line ブロックに置き換えます。シミュレーションを開始します。3 つの送電線モデルから取得した 3 つの波形を比較します。シミュレーション データ インスペクターを開きます。Run 1 の Ub1 信号と Ub2 信号、Run 2 の Ub2 信号および Run 3 を選択します。
これらの波形をズームしたものを次の図に示します。簡単な回路の解析 で実行した周波数解析から予想できるように、1 つのπ型モデルが、229Hz よりも高周波数には応答しません。ラインを離散化するために高周波数の振動が生じますが、精度は 10 個のπ型セクションをもつモデルの方が良くなります。分布定数線路に関連する伝播の時間遅延は 1.03 ms であることが、はっきりと確認できます。
3 種類の異なる線路モデルを使った受端電圧
電気システムの離散化
SimPowerSystems の重要な機能は、連続可変ステップ積分アルゴリズム (ソルバー)、もしくは離散ソルバーを使ったシミュレーションができることです。小さなシステムでは通常、可変タイム ステップ アルゴリズムは固定ステップ法よりも速くなります。その理由は積分ステップの回数が少なくて済むからです。一方、多くの状態を有し、またパワー エレクトロニクス スイッチのような非線形素子のブロックをもつ大規模システムでは、アルゴリズムの選定よりも、電気回路を離散化することの方がシミュレーションの高速化には有利になります。
システムを離散化する場合、シミュレーションの精度はタイム ステップによって決まります。粗過ぎる時間ステップでは十分な精度は得られません。時間ステップが許容できるものであるかどうかを知る方法は、異なる時間ステップでシミュレーションを繰り返し、許容できる最大の時間ステップを探すことです。通常、50 Hz または 60 Hz の電力システムのスイッチングによる過渡状態のシミュレーションや、ダイオードやサイリスタのようなライン転流に使われるパワー エレクトロニクス デバイスを使った回路のシミュレーションでは、20 µs から 50 µs のタイム ステップで十分良い結果が得られます。強制転流パワー エレクトロニクス スイッチを使ったシステムでは、システムの時間ステップを小さくしなければなりません。これらのデバイス、絶縁ゲート バイポーラ トランジスタ (IGBT: insulated-gate bipolar transistor)、電界効果トランジスタ (FET: field-effect transistor)、ゲート ターンオフ サイリスタ (GTO: gate-turnoff thyristor) は、高いスイッチング周波数で動作しています。
たとえば、8 KHz で動作するパルス幅変調 (PWM) インバーターのシミュレーションで必要な時間ステップは、最大でも 1 µs です。
power_3level の例を開きます。Powergui ブロックで、[Simulation type] が
[Discrete]
に設定され、[Sample time] が、[モデル プロパティ] に定義された変数 Ts により 1e-6 秒に設定されていることに注目してください。1 回目のシミュレーションを実行します。連続シミュレーションを実行する場合は、Powergui ブロックのパラメーター ダイアログ ボックスを開き、[Simulation type] を
[Continuous]
に設定します。[コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスで、[ode23tb variable-step solver]
を選択します。モデルのシミュレーションを実行します。Powergui ブロックで、[Simulation type] を
[Discrete]
に設定します。[モデル プロパティ] の モデルの [InitFcn] コールバック セクションで、Ts = 20e-6
と指定します。シミュレーションを実行します。シミュレーション データ インスペクターを開き、高周波数の変化における違いを比較します。
1 µs は、連続シミュレーションと比較して妥当な結果といえます。しかし、タイム ステップが 20 µs になるとかなりの誤差が生じます。したがって、1 µs のタイム ステップはこの回路では許容可能であり、同時にシミュレーション速度の改善につながります。