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PID 制御のためのシステム同定

プラントの同定

多くの場合、制御するシステムの動的表現は簡単には利用できません。この問題に対する 1 つの解決法は、同定の手法を使用して動的モデルを取得することです。システムを測定可能な信号によって励起し、それに対応するシステムの応答をあるサンプルレートで収集します。次に、結果の入出力データを使用して伝達関数モデルや状態空間モデルなどのシステムのモデルを取得します。このプロセスは "システム同定" または "推定" と呼ばれます。システム同定の目標は、特定の入力に対する測定されたシステム応答と、同じ入力に対するモデルの応答の間で、最適な近似を得られるモデルを選択することです。

制御システムの Simulink® モデルがある場合、入力/出力データを測定する代わりにシミュレートできます。推定のプロセスは同様です。ある既知の励起に対するシステム応答がシミュレートされ、結果のシミュレートされた入力/出力データに基づいて動的モデルが推定されます。

推定に測定データまたはシミュレーション データのいずれを使用するにしても、適切なプラント モデルが同定されたら、プラント モデルが表すシステムの望ましい動作の知識に基づいて、プラントに対して制御目的を設定します。次に、これらの目的に適したフィードバック コントローラーを設計します。

System Identification Toolbox™ ソフトウェアがある場合は、1 つのインターフェイスでプラント同定とコントローラー設計の両方に PID 調整器を使用できます。入力/出力データをインポートし、それを使用して 1 つ以上のプラント モデルを同定できます。あるいは、Simulink モデルからシミュレートされた入力/出力データを取得し、それを使用して 1 つ以上のプラント モデルを同定できます。その後、これらのプラントを使用して PID コントローラーの設計および検証を行うことができます。PID 調整器では、独立した同定タスクから取得したプラント モデルなどを直接インポートすることもできます。

システム同定の概要については、システム同定について (System Identification Toolbox)を参照してください。

PID 制御のための非線形システムの線形近似

多くのシステムの動的動作は、システムの入力と出力との間の線形関係によって適切に記述できます。ある操作状態で動作が非線形になる場合でも、システムのダイナミクスが線形になる領域がしばしばあります。たとえば、オペ アンプの動作や空力体の揚力対力のダイナミクスは、特定の制限された入力の操作範囲では線形モデルで記述できます。このようなシステムに対して、動作が線形である範囲内に限ってシステムを励起させる実験 (またはシミュレーション) を行って入力/出力データを収集できます。その後、そのデータを使用して線形プラント モデルを推定し、線形モデルの PID コントローラーを設計できます。

その他の場合は、非線形性の影響は小さいです。このような場合、線形モデルは良い近似を示すので、非線形の逸脱は外乱として扱われます。このような近似は入力プロファイル、励起信号の振幅と周波数成分に大きく依存します。

線形モデルは、少量の摂動入力が原因でシステム応答の平衡点からの偏差を示すことがよくあります。出力 y(t) が既知の入力 u(t) への応答として所定の軌跡に従う非線形システムを考えます。ダイナミクスは dx(t)/dt = f(x, u), y = g(x,u) で記述されます。ここで、x はシステムの内部状態のベクトル、y は出力変数のベクトルです。関数 f および g (非線形であってもよい) は、システムおよび測定ダイナミクスを数学的に記述したものです。システムが平衡状態にあるとき、入力 Δu に対する小さい摂動により、出力 Δy に小さい摂動が起きるとします。

Δx˙=fxΔx+fuΔu,Δy=gxΔx+guΔu.

たとえば、以下の Simulink ブロック線図のシステムを考えます。

外乱のない環境で動作する場合、値が 50 の定格入力ではプラントは値 2000 の一定の軌跡に保たれます。外乱があればプラントはこの値から逸脱します。PID コントローラーのタスクは、妥当な時間内にシステムを定格値に戻すように、入力信号に小さな修正を加えることです。したがって PID コントローラーは、実プラント自体が非線形の場合でも線形の偏差ダイナミクスに対してのみ機能する必要があります。このように、平衡条件でのシステムの線形近似に対する PID コントローラーを設計することにより、ある領域での非線形システムを効果的に制御できる場合があります。

線形プロセス モデル

一般的な使用例として、製造プラントの定常状態の動作に対する PID コントローラーの設計があります。このようなプラントでは、出力量に対する測定可能な入力変数の影響に関するモデルが、SISO プラントの形式で必要になることがあります。システム全体の性質としては MIMO であっても、選択した出力に対して 1 つの入力変数が与えるインクリメンタルな効果を測定できるような方法で、実験またはシミュレーションを実行します。データには多くのノイズが存在する場合がありますが、支配的なダイナミクスのみを制御することが期待されるので、多くの場合低次のプラント モデルで十分です。入力/出力データを収集またはシミュレートし、そこからプロセス モデル (未知の遅延をもつ低次伝達関数) を導出することにより、このような代わりのモデルが取得されます。データを導出するための励起信号は、多くの場合選択した入力変数の値の単純なバンプです。

高度なシステム同定タスク

PID 調整器で同定できるのは、単入力、単出力の連続時間プラント モデルのみです。さらに、PID 調整器では次のシステム同定タスクは実行できません。

  • 任意の数の極と零点をもつ伝達関数の同定 (PID 調整器では、最大 3 つの極と 1 つの零点および積分器とむだ時間の伝達関数を同定できます。PID 調整器は任意の次数の状態空間モデルを同定できます)。

  • モデルの外乱コンポーネントの推定。これは測定されたダイナミクスをノイズ ダイナミクスから分離するために便利な場合があります。

  • プラント応答を独立したデータセットと比較することによる推定の検証。

  • 残差分析の実施。

これらの強化された同定機能が必要な場合は、データを System Identification アプリ (System Identification (System Identification Toolbox)) にインポートします。System Identification アプリを使用してモデルの同定を実行し、同定されたモデルを MATLAB® ワークスペースにエクスポートします。その後、同定されたモデルを PID 調整器にインポートして PID コントローラーを設計します。

System Identification Tool の詳細は、Identify Linear Models Using System Identification App (System Identification Toolbox)を参照してください。

参考

(System Identification Toolbox)

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