ロボットティーチング

ロボットティーチングとは?

ロボットティーチングとはロボットアームに動作時の経路(軌道)を事前に教えることを指します。教示とも呼ばれ、導入したロボットアームを意図通りに動作させるために必要な作業です。

昨今では、自律的に作業対象を認識し半自動的に経路計画を行う、ティーチングレスのシステムも検討が進められています。

ロボットティーチング

ロボットティーチング

ロボットティーチングが必要となる背景

ロボットを用いて所定の作業を自動化するためには、所定の作業を登録する必要があります。

しかし様々な作業対象、環境に対して利用されるロボットが、自律的にその作業を行うことは容易ではありません。そこでロボットの作業空間において、事前に決められた経路を教える、ティーチングを行います。

以下に、自律的な判断が難しい要素の例を挙げます。

  • 障害物・対象物の認知(判断)
  • 最短経路・障害物回避経路の判断
  • 把持の可否判断

ロボットのティーチング自体は難しい作業ではありませんが、対象作業によって繊細な調整が必要になるケース、安全性上のリスクを考慮する必要があるケースなど、作業対象によって大きく難易度が変わってきます。特に安全性の観点から、「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育」が必要になります。

最新の認識技術や、経路計画技術を含めた、より柔軟なティーチング手法、つまりティーチングレスのシステムは、多品種少量生産のトレンドとともにニーズが拡大しており、様々な手法が提案されています。

ロボットティーチングとは?

ここでは一般的なロボットティーチングの手法とその特徴を挙げます。ロボット本体以外に、ティーチングペンダントや、専用コントローラー、専用のオフラインティーチングソフトを利用します。

  • オンラインティーチング

コントローラーを用いて実際のロボットをゆっくりと動作させながら、経路を教示する手法です。

メリット:ロボットの個体差や、環境のばらつきなどを考慮した精度の高い経路計画が求められる場合に有効な手法の一つです。

デメリット:ティーチングペンダントに備えられた操作性で、環境などのばらつきや障害物を考慮した微細な調整を行うのは、容易ではありません。

  • オフラインティーチング

シミュレーターを用いてあらかじめ仮想環境で経路を教示し、実際のロボットに反映させる手法です。

メリット:実機を使う必要がないため、ハードウェア制約に左右されない特徴があります。

デメリット:実機環境を仮想的に模擬する必要があり、オフラインティーチングソフトの機能や操作性を別途習得する必要があります。

  • ダイレクトティーチング

オンラインティーチングと同様、実際のロボットを動作させますが、作業者がロボットの先端を持って直接操作したり、ダイレクトティーチング専用のコントローラーを用いて教示したりする手法です。

メリット:従来型のオンラインティーチングのユーザビリティを改善し、直観的な教示を可能としている点が大きな特徴です。小型の協働ロボットで特に用いられることの多い手法の一つでもあります。

デメリット:オンラインティーチング同様、実際の装置を使った教示を行うため、現場作業にともなう安全面での注意が必要です。

ロボットティーチングの応用先

ロボットティーチングは一般的な産業用ロボットの導入時に利用されています。

  • 把持(ピック&プレイス)
  • パレタイジング
  • 外観検査
  • 組み立て
  • 箱詰め
  • 嵌合
  • ばら積みピッキング
  • 研磨・バリ取り
  • 溶接・塗装
  • 人との協働作業を行う新しいロボットの運用形態
パレタイジングの例

パレタイジングの例

ロボットティーチングの課題

ロボットティーチングを実施する上での課題はなんでしょうか。

広く普及しているオンラインティーチングについて考えてみます。オンラインティーチングはティーチングペンダントを活用し、対象のタスクにあったロボットティーチングが必要になります。対象物によって軌道が変わる場合、都度ティーチングをやり直す必要があります。また、混流ラインなどフレキシブルなタスクへの対応は容易ではありません。ティーチングペンダントは産業ロボットメーカーごとに操作性が異なるため、他メーカーのロボットを組み合わせる場合にはロボットティーチングの手法を一から習得する必要があります。

そこで期待されているのがオフラインティーチングです。オフラインティーチングはシミュレーション技術を活用し、実機レスでのロボットティーチングを実現します。多品種少量生産ラインや混流生産ラインなどの複合タスクにも柔軟に対応可能です。また、ロボットティーチングの際、誤って実機を破壊したり、人に危害を加えたりすることもありません。理想的なロボットティーチング手法と言えるでしょう。

では、オフラインティーチングが普及するための課題はなんでしょうか。下記に3つの主要な課題を挙げます。

  1. 高精度なシミュレーション環境が必要となる
    オフラインティーチングを実現する際、高精度なシミュレーション環境が必要になります。対象のタスクにより、必要となる精度基準が変わります。パレタイジングのようなタスクは位置決め精度が重要となります。一方、把持や嵌合は力の推定が重要になります。ロボット自体のシミュレーションモデルも抽象度の高い運動学のモデルから、動力学のモデル、さらには接触や摩擦、変形を考慮したシミュレーションまで様々です。これらのシミュレーション環境をどのように準備するかが課題です。また、対象物体も製造交差・バラツキを持つため、それらを考慮した柔軟性の高いシミュレーション環境が必要となります。
  2. センサーによる知能化・インテリジェント化が不可欠
    産業ロボットを自律化、知能化する上で欠かせないのがセンサーです。カメラなどの画像センサーやレーザー距離計、ToFカメラ、ステレオビジョン、ストラクチャードライトなど深度センサーまで様々なセンサーの活用が必要となります。オフラインティーチングの際にもそのようなセンサーのシミュレーションを通して、センシングが意図通りに動作することを確かめる必要があります。また、計測したセンサー信号の処理には画像処理や点群処理に加え、近年ではAIディープラーニングの手法が広く使われています。このような認識技術も含めたロボットティーチングが必要となります。
  3. 高度なモーションプランニング技術が必須
    センサーで対象の物体や障害物を認識したのち、タスクを遂行するための軌道を計画する必要があります。このようなモーションプランニング技術は経路探索技術と軌道生成の技術を組みあわせて実現されます。モーションプランニングの際には障害物の配置や実行時間、ロボットアームの関節可動範囲など様々な制約を考慮する必要があります。また、一度計画した軌道も、軌道追従時の状況に応じて軌道を更新および修正する、オンライン軌道計画が必要となるタスクも存在します。

MATLABによるロボットティーチング

MATLABにはオフラインによるロボットティーチング環境を構築するための様々なコンポーネントが用意されています。

Simscape Multibody™ではロボットと対象の物体の接触や摩擦などの高度な物理シミュレーションを可能とします。これにより、把持などのタスクの動作をあらかじめシミュレーションすることができます。また、各パラメーターの公差を予め考慮してシミュレーションすることで、オフラインティーチング時と実機実行時のギャップを最小化することができます。

協働ロボットでは作業者と接触した際に力を高精度に制御する必要があります。そのようなダイナミクスをシミュレーション上で考慮できるのも大きな利点です。

Simscape Multibody による高精度シミュレーション

Simscape Multibody による高精度シミュレーション

ロボットティーチングの認識アルゴリズムでは、対象ワークの物体認識や切り出し(セグメンテーション)、点群マッチング、姿勢推定など複合的な認識アルゴリズムが必要となります。さらに、この分野ではディープラーニングを中心とした機械学習AI技術も活用が広がっています。Computer Vision Toolbox™およびLidar Toolbox™ではこのようなコンピュータービジョン、点群処理のアルゴリズムを容易に実装することができます。ディープラーニングについてはDeep Learning Toolbox™を活用することで位置や姿勢が変化したワークの検出が可能なアルゴリズム(YOLOv3/SSD)などがサポートされています。

Deep Learning Toolbox による物体認識

Deep Learning Toolbox による物体認識

ロボットアームの経路計画や軌道計画ではロボット自体の特性や周辺の障害物などの複数の制約を考慮した高度なアルゴリズムが必要となります。そのようなアルゴリズム開発にはRobotics System Toolbox™の経路計画および軌道計画の関数ライブラリが活用できます。A*やRRT*と呼ばれる基本的な経路計画のアルゴリズムの他、台形プロファイルなどの軌道計画のアルゴリズムも準備されています。また、Navigation Toolbox™を活用することで経路計画のアルゴリズムを柔軟にカスタマイズすることが可能です。さらに、Reinforcement Learning Toolbox™を活用し、強化学習によるEnd-to-Endなモーションプランニングも試行錯誤可能です。

Robotics System Toolboxによるモーションプランニング

Robotics System Toolboxによるモーションプランニング

参考: SLAM (自己位置推定と環境地図作成), 逆運動学